9月2日(水)、MARKファミリービジネス研究会9月例会(第6回)を開催しました。
9月のテーマは、「あなたから、また買いたい」です。

第1部では「個人で成果を出すリーダー」から「チームと組織を育てるリーダー」への変革プロセスを学び、第2部ではMBA流ケースメソッドを通じて「意思決定がもたらす影響の深さ」を追求する、極めて密度の高い講義となりました。

講師プロフィール:仙波 千春氏

仙波千春様

オフィスPLEASURE TO ALL 代表 / 人材育成コンサルタント

化粧品メーカー等の販売員として延べ8万人の接客を経験。百貨店でのトップ販売員時代に、メンバーの大量離職の危機を経験したことを機に「個人プレイからチームサポートへ」方向転換。後に「仙波メソッド」と呼ばれる人材育成・販売指導スタイルを確立する。現在は年間70回以上の研修・講演を行い、組織に「前向きな空気」と「自走するチームワーク」を根付かせるプロフェッショナルとして活躍中。

【第1部】前向きな空気を生みだす、PLEASUREコミュニケーション

第1部の講師は、オフィスPLEASURE TO ALLの仙波千春様です。

仙波様は、化粧品などの販売員として延べ8万人への接客を経験し、多くの販売員を育成してきた販売のプロフェッショナルです。現在は、「売れる人」と「チームワーク」を育てる講師として、年間70回以上の研修を行うなど、幅広く活躍されています。

「あなたが明日いなくなったら、何が残りますか?」─トップ販売員が突きつけられた組織の壁

講演の冒頭、仙波様は参加者に二つの質問を投げかけられました。

「またこの人から買いたい」と言われる社員は何人いますか?
「この人と一緒に働きたい」と思える人が、社内に何人いますか?

この二つの問いは、決して別々のものではありません。お客様とのコミュニケーションと、社員同士のコミュニケーションは深くつながっていると、仙波様は言います。

20年にわたる経験から、売上を伸ばし、成果を上げるためには、販売のスキルやテクニックだけではなく、チームを育て、組織として長く成果を出し続けるための土台をつくることが大切だと強調されました。

事務所名でもある「PLEASURE TO ALL」について、仙波様は「コミュニケーションを通じて、小さな喜びや幸せという、かけがえのないものをすべての人に」と表現されています。

そして、コミュニケーションの重要な要素として、「PLEASUREコミュニケーション」と呼ぶ、P・L・E・A・S・U・R・Eの8つの頭文字からなる言葉を紹介されました。

P(Perceive:気づく)
L(Listen:聴く)
E(Empathize:寄り添う)
A(Act:動く)
S(Share:分かち合う)
U(Update:更新する)
R(Relate:つながる)
E(Empower:人を活かす)

講演では、この8つについて一つずつ、ご自身の体験談も交えながら、その意味や実践のポイントをお話しいただきました。ここでは、その一部をご紹介します。

  • 気づく:接遇の基本には、目配り、気配り、心配りの「三配り」がありますが、会社で起きている「小さな変化」に気づくことが大切です。「気づく」と「気づかされた」の違いは大きい。経営者の仕事は、変化を見ることである。
  • 聴く:顧客からのクレームや社員からの要望に対してどう対応するかを考えるとき、すぐに答えを出そうとするのではなく、その言葉の奥にある「願い」や「期待」を聴くことが大切です。
  • 分かち合う:真のチームワークとは、単に仲が良いことではありません。チームワークとは、強みを最大化し、弱みを補うこと。そして、社内の空気は必ず外向きの接遇に表れます。
  • 人を活かす:リーダーが一人で動かす会社には限界があります。人が動く会社にするためには、考えられる人を増やすことが必要です。そして、それを実現するリーダーとは、答えを持っている人ではなく、人と一緒に答えをつくれる人なのです。

自分が売るのではなく、人を育てる

講演の後半では、スーパー販売員として絶頂期にあった仙波様が、「成果を上げるのは個人の力ではなく、チームワークである」と気づくことになった、大きな転機についてお話しいただきました。それは、ご自身を含め5人のメンバーで運営する、ある百貨店内の化粧品コーナーでリーダーを務めていたときのことです。

仙波様は「売りに売りまくり」、店の目標に対して120%、130%という実績を上げていました。

ほかの販売員は目標に達していませんでしたが、店全体の売上によって評価が決まり、メンバー全員に報奨金が与えられる仕組みだったため、メンバーも喜んでいるはずだと思っていたそうです。実際、メンバーとはプライベートな相談に乗ったり、一緒に食事に出かけたりするなど、関係も良好でした。

ところがある日、自分を除く4名のうち3名から、同時に「仕事を辞めたい」と告げられます。

仙波様にとっては、思いもよらない申し出でした。自分は良いリーダーだと思っていたため、なぜなのか全く分からないまま理由を尋ねると、返ってきたのは「仕事が楽しくないから」という言葉でした。

そこで仙波様は、有頂天になっていた自分自身を見つめ直し、「楽しくない」と感じている彼女たちを、どうすれば楽しく働けるようにできるのかと考えます。

自分は黒子に徹し、メンバーを徹底的に観察して、「なぜ売れないのか」を分析しました。そして丁寧な指導を続けた結果、後に「仙波メソッド」と呼ばれることになる販売指導のスタイルが生まれ、徐々に成果が現れていきました。

これが、「PLEASUREコミュニケーション」を考えるきっかけになったのです。

かつては「ダメ人間製造マシン」とあだ名をつけられたという仙波様ですが、この経験を通じて、成果を出すためには販売のノウハウ以上に、コミュニケーションやチームワークが重要であることを実感されたそうです。

「自分が変わる」ことで、会社が変わる

今回の講演を総括すると、「PLEASUREコミュニケーション」を実践することは、

「自分が動く」
  ↓
「人が動く」
  ↓
「チームが動く」
  ↓
「会社が動く」

という流れをつくり出すことです。

そしてそれは、

「自分が変わる」―相手の世界に飛び込む
  ↓
「人が変わる」―関わる周囲の人が変わる
  ↓
「チームが変わる」―過半数の人が変わると、一気に全体が変わる
  ↓
「会社が変わる」―組織が強くなる

ということでもあります。

講演の最後に、仙波様からこんな問いかけがありました。

「あなたが明日いなくなったら、あなたの会社には何が残りますか?」

私がいなくなっても残してもらいたいのは、「前向きな空気」です。そんなコミュニケーションを目指しましょう。

「PLEASURE TO ALL」――「コミュニケーションを通じて、小さな喜びや幸せという、かけがえのないものをすべての人に」。

その「すべての人」には、リーダーである「あなた」も入っています。

【第2部】ケースメソッドで学ぶ「深い意思決定」

第2部は、名古屋商科大学ビジネススクールの横山研治教授による「MBAケースメソッド」の講義です。

横山研治氏

講師プロフィール:横山 研治氏

名古屋商科大学(NUCB)ビジネススクール研究科長
立命館APU名誉教授 

専門はファミリービジネス論、競争戦略論。立命館APUの副学長や立命館学園常任理事を歴任し、国内外のビジネス教育機関で要職を務めるトップアカデミア。

本講座で横山教授が指揮を執る「ケースメソッド」は、実在する企業の経営危機(ケース)の主人公になりきり、決断を疑似体験するMBA流の超実践的授業。単なる教科書的な知識のインプットに留まらず、正解のない過酷な状況下で「考え抜く力」と「圧倒的な論理的思考力」を徹底的に鍛え上げる。

横山教授は、リーダーが意思決定を行う際には、その決定がステークホルダーにどのような影響を及ぼすのか、いわば「意思決定の広がりと深み」を意識することが大切だと話されます。

どのような意思決定にも、マイナスの影響を受ける人や、強く反対する人がいます。その結果、人間関係が悪化したり、組織内に派閥が生まれたりすることは避けなければなりません。

リーダーの役割は、意思決定そのものだけでなく、その結果として生じるさまざまな影響を管理すること。つまり、ポジティブな面をより大きくし、ネガティブな面をできるだけ小さくすることが「経営」なのだと、横山教授は述べられます。

そして、こうした「深い意思決定」を身につけるための有効な学習手法が、ケースメソッドです。

今回の講義では、二つのケースを題材に議論が行われました。

ケース1「成果と指導のはざまで」

一つ目は、二つある営業課のうち、一人の課長への対応を考える「成果と指導のはざまで」というケースです。

その課長は、非常に優秀な営業マンです。以前は二つの営業課の売上は拮抗していましたが、その人物が課長に就任して以降、業績は急伸。現在では、会社全体の3分の2の売上をその営業課が占めるまでになっています。この課長のおかげで「成長できた」と感謝する部下も少なくありません。

しかしその一方で、指導は厳しく、「ハラスメントの一歩手前ではないか」という声もあります。毎年のように、「会社を辞めたい」「他部署に移りたい」と訴える課員も出ています。

では、あなたがこの会社の部長だったとしたら、どうするでしょうか。

この課長の営業力を活かしながら、部下が安心して成長できる営業組織をつくるためには、どのような対応が必要でしょうか。

第1部の仙波様の講演にも通じるテーマであり、多くの会社にとって決して他人事ではない、リアリティのあるケースです。

ディスカッションでは、課長や課員の配置転換、部署の新設、売上だけではない人事評価制度の導入など、さまざまな意見やアイデアが出されました。

そうした意見に対して横山教授からは、「その施策によって、どのようなデメリットや影響が想定されるのか」「悪い結果が出た場合、誰が責任を取るのか」といった鋭い質問が投げかけられ、議論はさらに深まっていきました。

一つの問題に対して「正解」を探すのではなく、自分の出した答えによって、誰にどのような影響が及ぶのか。その先に起こり得ることまで考えることが、経営者の意思決定には求められるのだと感じさせられるケースでした。

ケース2「ファミリービジネスにおける意思決定」

二つ目は、一つ目のケースと共通する論点を持ちながら、まさにファミリービジネスならではの難しさを考えるケースです。

創業家を押しのけるような形で、実力も実績もある創業家出身ではない経営者が、自分の息子を重用するようにも受け取られかねない行動をしたことで問題が生じた、セブン&アイ・ホールディングスの事例を取り上げました。

「会社にとって最善の選択は何か」という経営上の合理性だけではなく、創業家との関係、経営者としての立場、後継者問題、社内外のステークホルダーへの影響など、さまざまな要素を考慮しながら意思決定を行う必要があります。

ファミリービジネスでは、経営と家族の問題が密接に関わるからこそ、意思決定はより複雑になります。

このケースを通じて、ファミリービジネスにおける経営者の意思決定の難しさについて、改めて考える機会となりました。

ケースメソッドで「経営の知恵」を身につける

ケースメソッドは、実際の企業で起こった出来事や課題を題材に、自分自身が経営者やリーダーの立場になったつもりで意思決定を行い、他の参加者との議論を通じて考えを深めていく学習方法です。単に知識を一方的に学ぶのではなく、現実の経営課題をいわば「模擬体験」することで、知識を、実際の経営に活かせる「知恵」へと変えていくことができます。

今回の講義を通じて改めて感じたのは、経営における意思決定では、単に「何をするか」を決めるだけでは不十分だということです。

その決定によって、誰に、どのような影響が及ぶのか。さらに、その影響をどのようにマネジメントしていくのか。

そこまで考えて初めて、経営者としての「深い意思決定」になるのだと学びました。

今回のケースメソッドが、参加者の皆さまにとって、「経営を考えること」の面白さや奥深さに触れ、日々の意思決定を少し違った視点から考えるきっかけとなったなら、大変うれしく思います。

「人」と「経営」の両方を学べる場所

今回の例会では、人を活かし、チームを育てるコミュニケーションと、経営者として深く考え、決断するための意思決定について学びました。

ファミリービジネスを長く成長させていくためには、「人」と「経営」の両方に向き合うことが欠かせません。

MARKファミリービジネス研究会では、講師からの学びだけでなく、同じ立場の経営者との対話を通じて、自社の未来を考える機会を提供しています。


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