10月7日(水)、MARKファミリービジネス研究会10月例会(第7回)を開催しました。
10月のテーマは、「組織は『人』でできている」です。

会社の成長や事業変革を支える真の原動力とは何か。そして、経営者として後継者や社員とどのように向き合うべきか。第1部では老舗石鹸メーカーの先進的な組織改革から「自律型組織」のあり方を学び、第2部では同族経営における意思決定と事業承継の難しさをケースメソッドで深掘りしました。

講師プロフィール:木村祥一郎 氏

木村祥一郎 氏

木村石鹸工業株式会社 代表取締役

1995年にITベンチャーを起業後、2013年に家業の木村石鹸工業へ入社し、2016年に4代目社長に就任。創業100年の歴史を持つ同社にて自社ブランド事業を立ち上げ、売上構成比4割へと拡大させる。さらに「自己申告型給与制度」やフラットなチーム制の導入など、未来への投資と相互の信頼をベースとした「自律型組織づくり」を推進。自発的・自律的な働き方を引き出す独自の経営で注目を集めている。

【第1部】「信頼」をベースに自律を促す 木村石鹸流・新しい組織づくりの考え方

第1部では、木村石鹸工業株式会社の代表取締役社長・木村祥一郎氏をお迎えし、独自の組織づくりと経営哲学についてご講演いただきました。

木村石鹸工業の歩みと「暗黒時代」からの脱却

1924年創業の木村石鹸工業は、大阪府八尾市に本社を置く老舗石鹸メーカーです。戦後の再出発を経て、2代目・3代目のもとで業務用洗剤や家庭用製品、OEM(相手先ブランド名製造)事業を中心に事業を発展させてきました。

現在の4代目社長である木村祥一郎氏は、当初家業を継ぐ意思はなく、大学時代の仲間とIT企業を創業。商品開発やマーケティングを手がけ、事業を順調に成長させていました。

一方、祥一郎氏への承継を諦めた3代目(父親)は、親族外の第三者への事業承継を試みます。しかしこれがうまくいかず、会社は後に「暗黒時代」と呼ばれる混迷期を迎えることになりました。

「このまま放置するわけにはいかない」と覚悟を決めた祥一郎氏は、2013年に家業へ復帰。従来のOEM依存から脱却し、自社ブランドを軸とする経営へ大きく舵を切りました。

  • 2015年:自社ブランド「SOMALI」展開
  • 2016年:4代目社長に就任
  • 2017年:「C SERIES」展開
  • 2020年:ヘアケアブランド「12/JU-NI」展開

こうした一連の事業改革により、2013年当時に約7億円だった売上高は、直近で約18億円へと大幅な伸長を果たしています。

4代目社長が進めた3つの事業改革と「組織能力」

木村社長が取り組んできた改革は、大きく次の3点に集約されます。

  1. OEM中心から自社ブランドへ
    受託製造中心のモデルから、自社で企画・開発し、顧客へ直接価値を届けるBtoC事業へ転換。
  2. 社員の自主性を重視した組織づくり
    稟議制度の廃止や、自ら給与額を提案する「自己申告型給与制度」の導入など、主体的に考え動ける環境を整備。
  3. 伝統技術と新しい発想の融合
    職人が経験と勘でつくる伝統の「釜焚き製法」を守りつつ、現代の生活者ニーズに応える商品を開発。

一見すると、これらは緻密なブランディングやマーケティング戦略の勝利に見えます。しかし木村社長は、「戦略を成功させるか否かは『組織能力』にかかっている」と指摘します。

ここでいう組織能力とは、会社の体制や製造・開発手法だけでなく、社員の意識・感情・倫理観まで含めた総合的な力(=社員がどのような意識を持ち、どんな気持ちで働いているか)を指します。外からは見えにくく、簡単には模倣できないこの組織能力こそが、経営の核となるのです。

「言ったもの負け」から「自律」へ。社員の意識を変えた転機

木村社長が復帰した当時、社内には「提案して失敗すると責任を問われる(=言ったもの負け)」という風土があり、社員は新しい挑戦に消極的でした。

例えば、それまで300円ほどの台所用洗剤しか扱ったことがない社員にとって、自社開発した1本1,200円の「SOMALI」を営業することは想像もつかないことでした。

大きな転機となったのは、日用品ではなく「デザイン性の高い商品が集まる展示会」への出展でした。当時としては珍しいコンセプトが話題を呼び、多くの商談を獲得。価格交渉が中心だった従来のOEM営業とは異なり、自分たちの技術や発想がもたらす価値を社外から高く評価されたことで、社員の意識は劇的に変化しました。

この成功体験をきっかけに、社内の仕組みも次々と刷新されていきます。

  • 稟議制度の廃止(セルフ承認へ)
    責任分散のために多数の押印を必要としていた従来の稟議を廃止。逐一の承認を不要とし、セルフ承認を基本としました。
  • 「責任」の捉え方の再定義
    木村社長は責任を「取る責任」と「果たす責任」に分類。「会社が負うのは『取る責任』であり、社員に求めるのは自分事で成し遂げる『果たす責任』である」と示し、失敗を恐れず挑戦できる環境を整えました。

主体性を引き出す独自の取り組み

講演では、木村石鹸工業ならではのユニークな組織づくりの取り組みが紹介されました。

1. 「じぶんプロジェクト」

社員面談で「会社の問題点」を尋ねると多くの意見が出る一方、「あなたには何ができますか?」と問うと戸惑う社員が多かったといいます。課題を「他人事」と捉えていた状態から脱却するため、自ら問題を発見・解決する「じぶんプロジェクト」を発足。3年間の取り組みを通じ、社員自らが「社内コミュニケーションの改善」という根本課題に気づき、行動を起こす文化が生まれました。

2. 「自己申告型給与制度」

過去の結果を評価して賃金を決める従来型とは異なり、「これからの1年間で会社にどう貢献できるか」を社員自身が提案し、希望給与額を申告する制度です。明確な計算式ではなく、会社と社員が対話を重ねて合意点を模索します。木村社長はこれを過去への評価ではなく「未来への投資」、そして双方の「覚悟の交換」と表現します。

人の価値を「いる」「なる」「する」で捉える

木村石鹸工業の根底にあるのは、人を単なる「経営資源」として扱わない姿勢です。木村社長は、人の価値には「いる」「なる」「する」という3つの段階があると説明します。

  • 親子の関係:「いる(存在)」から始まり、成長して何かになり(なる)、何かできるようになる(する)。
  • 通常の組織:「する(成果・スキル)」から始まり、成果が出ないと「いる」ことの価値まで否定されがちになる。

木村石鹸工業では、一人の人間として「いる(存在)」こと自体の価値を尊重する組織の強さを大切にしています。そのための具体的施策として、以下のような風土づくりを行っています。

  • 採用基準として「性格のいい人」を最重視する
  • 問題や失敗を個人の責任に帰帰させない仕組みをつくる
  • 雑談や「ザッソウ(雑な相談事)」を推奨し、社内で自然に笑い合える環境をつくる

なぜ自律型組織を目指すのか:料理と「発酵」のたとえ

木村社長が目指すのは、「信頼」をベースに社員が自ら考え、決定し、行動する自律型組織です。自律した組織は一人ひとりのモチベーションが高まるだけでなく、環境の変化や予期せぬトラブルに直面した際にも現場で柔軟に対応できる「ピンチに強い組織」となります。

講演の締めくくりとして、木村社長はこれからのマネジメントを「料理」と「発酵」にたとえて語られました。

「これまでのマネジメントが、良い素材を集めて調理手順まで細かく管理する『料理』だったとすれば、これからは『発酵』を目指したい。良い菌が育ち発酵するような『環境(組織文化や風土)』を整え、あとは相手を信じて待つことが大切です」

人を細かく管理・指示する経営から、人の主体性と可能性を引き出す経営へ。社員を心から信頼し、自律を促す木村石鹸工業の実践は、これからの時代の組織マネジメントにおいて深い示唆を与えるものでした。

【第2部】MBA体験講座 ケースメソッドで学ぶ「深い意思決定」

第2部では、ケースメソッドを用いた体験講座を開催しました。当日は、名古屋商科大学ファミリービジネス研究所 リサーチフェローの河田淳氏に登壇いただき、自動車メーカー「フォード・モーター」の創業家を題材とした講義が行われました。

河田淳氏

ケース概要:フォード創業家における後継者の葛藤

フォード創業者のHenry Fordは自動車業界の傑出した人物で、T型フォードの大量生産によって大きな成功を収めていました。

Henry Fordは1919年、当時25歳の息子Edselをフォード・モーター社の社長に任命しました。しかし、社長という肩書があっても、実権は父親のHenryが握り続けました。父は息子の経営判断に頻繁に介入し、Edselは自分の考えを十分に実現できませんでした。

ライバルのGMに対抗するための新型モデルの開発や、経営の近代化を進めたいというEdselの考えはHenryに全否定されました。HenryはEdselを後継者として指名しながら、彼の能力や判断を認めず、時には人前でも厳しく批判しました。

Edselは父親に正面から対抗することを避け、結局Edselは永遠の御曹司としてその生涯を終え、癌により早逝します。

Edselの子、Henry2世の時代になっても対立は続き、Henry2世は会社から追放されます。しかし、株式の40%を承継していたEdselの妻やHenryの妻から退職を求められ、Henryは泣き叫びながら拒絶するも、最後には従わざるを得ず、1947年にこの世を去りました。

ケースメソッドを通じて得られた学び

ケースメソッドには決まった正解がありません。参加者は講師の問いかけに応じて意見を交わし、異なる立場や視点から事例を捉え直しました。多様な意見に触れることで、意思決定の難しさと、ものの見方を深めることの大切さを学ぶ講義となりました。

「人」と「経営」の両方を学べる場所

今回の例会では、人を活かし、チームを育てるコミュニケーションと、経営者として深く考え、決断するための意思決定について学びました。

ファミリービジネスを長く成長させていくためには、「人」と「経営」の両方に向き合うことが欠かせません。

MARKファミリービジネス研究会では、講師からの学びだけでなく、同じ立場の経営者との対話を通じて、自社の未来を考える機会を提供しています。


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