
10年目を迎えたMARKファミリービジネス研究会の第4回例会では、全国の教室に約1万台が導入されているウルトラワイドプロジェクター型黒板「ワイード」の仕掛け人、株式会社サカワ(愛媛県)の4代目・坂和寿忠社長が登壇。
歴史あるファミリービジネスが「これまでの誇り」を守りながら、いかにして「新しい価値」を創造していくべきか、その本質的なプロセスを学びました。
家業への葛藤を乗り越え、アナログな現場で挑んだ新規事業の壁
黒板屋の家に生まれ、いずれ家業を継ぐことが決まっていた坂和社長。東京の大学を卒業後、当時祖母が代表を務めていたサカワに入社しました。「古くさい」「先行きがなさそう」「息子として会社に入るのは大変そう」という黒板業界へのイメージを持ち、「考古学者になりたい」という夢もありましたが、家業を継ぐ以外の選択肢はありませんでした。敷かれたレールの上を歩まされるような人生に絶望した時期もあったといいます。
それでも、親の期待に応えたいという思いから、新規事業として電子黒板の販売に力を入れました。黒板というアナログ製品しか扱ってこなかった古参社員とのコミュニケーションに苦労しながらも、自ら営業に奔走し、文部科学省の政策という追い風もあって、大きな成果を上げることができました。
教育現場の「声」から着想。「黒板×ICT」が切り拓いた新たな可能性
しかし数年後、学校を訪れると、多くの電子黒板がほとんど使われないまま埃をかぶっている現状を目にします。その理由は、多機能すぎて現場の先生方が使いこなせず、十分な支持を得られていなかったためでした。一方で、先生方の声を聞く中で、黒板が長年にわたって教育現場で愛され続けている理由も改めて実感します。
「黒板を進化させ、本当に使いやすい製品を提供したい」と考えていた坂和社長が、たまたま目にしたのが東京駅駅舎で行われていたプロジェクションマッピングでした。建物などの立体物をスクリーンとして映像を投影する技術を見た坂和社長は、黒板をスクリーンとして文字や図形を投影しながら、従来どおりチョークで書き込みもできるというアイデアを思いつきました。
とはいえ、新規事業の立ち上げは、資金や技術、人材の確保、そして周囲の反対など、厳しい状況からのスタートで、多くの苦労があったそうです。しかし、その苦労が実を結び、ハイブリッド黒板アプリ「Kocri」や、ウルトラワイドプロジェクター型黒板「ワイード」を開発。「ワイード」はものづくり日本大賞優秀賞を受賞し、全国の教室に約1万台が導入されるなど、「黒板×ICT」という新たな可能性を切り拓いています。
「黒板屋であり、挑戦屋。」──社員と教育現場を幸せにする、常識に捉われない組織改革
2018年に代表取締役へ就任してからは、「社員から『働いていて幸せだ』と思われ、周囲からも『この会社を応援したい』と思ってもらえる会社」を目指し、さまざまなユニークな取り組みを進めています。
例えば、月に1回、水曜日を休日とする週休3日制を導入し、年間休日を135日としました。また、昨年からは自己申告型給与制度も導入しています。こうした制度は、働きやすい環境づくりに真剣に取り組んでいる会社として、社員からも高い評価を得ています。
さらに、「子どもたちに希望ある未来を届けたい」という思いから、その最前線で奮闘する先生方を応援する活動にも力を入れています。学校の先生限定の参加型音楽フェスの開催や、先生を主人公にしたドキュメンタリー動画の制作・配信など、教育現場を支えるさまざまな取り組みを行っています。
サカワの企業理念は「黒板屋であり、挑戦屋。」です。歴史ある「黒板屋」として積み重ねてきた誇りを守りながら、「挑戦屋」としてこれまでにない発想で常識を書き換えていく。その理念を体現し、挑戦を続ける老舗企業の姿が強く印象に残る講演でした。
【第2部】ビジネスよもやま話:ロゴが「顔」なら、フォントは企業の「声」である〜文字から紐解くブランディング戦略

第2部のビジネスよもやま話では、「フォント」を取り上げました。今回はフォントのトップメーカー株式会社モリサワ様から千駄榛菜様を講師にお招きし、『嘘みたいな本当(フォント)の話~フォントメーカーだから知っているブランディング』と題してお話をうかがいました。
まず、フォントとは、統一されたデザインの文字の一式(書体データ)を指し、明朝体やゴシック体などがよく知られています。
では、ブランディングとフォントにはどのような関係があるのでしょうか。ブランディングとは、ブランドの価値を高め、自社や自社の商品・サービスを顧客や取引先、社会に「独自のもの」として認識してもらい、他社との差別化を図る取組みです。講演では、ブランディングにおけるフォントの役割として、①読める、②らしく伝わる、③記憶される、の三つのポイントが紹介されました。
- 「読める」:多くの人に正しく情報を届け、誤読を防ぎ、信頼感につなげることが重要です。その一例として、UD(ユニバーサルデザイン)フォントが紹介されました。
- 「らしく伝わる」:フォントは感情やブランドイメージの形成に大きく関わります。また、使用するフォントの品質は、そのままブランドの品質感にもつながります。
- 「記憶される」:一貫したフォントの使用によって企業や商品の「らしさ」が積み重なり、ブランド資産として定着していきます。
千駄様は、「ロゴが企業や製品の『顔』であるならば、フォントはそのイメージを形づくる『声』である」と話されました。講演を通して、フォントの違いによる文字の見え方が、企業や製品に対する印象や信頼感に大きな影響を与えることを学びました。
また、フォントという「声」を相手に正しく届けるためには、伝えたい思いを相手に伝わる形に整えることが重要です。そのためには、「誰に伝えたいのか」「相手にどうなってほしいのか」といった受け手の立場を意識することがポイントであると説明されました。
さらに、「伝わる資料」づくりには、「情報整理」と「ビジュアル化」のスキルが欠かせません。講演では、クイズ形式の演習を交えながら、情報の優先順位を整理し、それを視覚的に表現することの大切さについて、分かりやすく紹介していただきました。参加者の皆さんは熱心に耳を傾け、フォントが文字情報の価値や伝わり方に大きく関わること、その奥深さや重要性について理解を深める貴重な機会となりました。

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