第一部:朝日インテック株式会社
代表取締役社長 宮田 昌彦 氏

第8回の講師は、朝日インテック株式会社代表取締役社長の宮田昌彦様です。

朝日インテックは宮田昌彦氏の父親が極細ステンレスロープの製造会社として創業。当時は主にOA機器などの産業機器向けの製品を扱っていましたが、その後、トヨタ自動車向けの製品の取り扱いを機に名古屋市に拠点を移しました。創業の頃から高い技術力を持ち、産業用デバイスを中心に技術開発を行う中で、オリンパス社の内視鏡用ワイヤーロープを受注製造したのがきっかけとなり医療分野への進出を決断。その過程でコア技術を培い、どんな難しい要求にも応える技術力を武器に、有力ドクターからの信頼も得て、他社には真似ができない治療用ガイドワイヤーなどの製品を開発。狭心症や心筋梗塞など虚血性心疾患に対し、血管の狭くなった部分をカテーテルを使って拡げる治療(PCI治療)の発展に大きく貢献しています。 創業から50年、脅威の成長を遂げた朝日インテックは日本有数の医療機器メーカーに成長しました。

さて、朝日インテックは医療機器に参入する前から、「技術」にこだわってきた会社です。当社は企業理念の一番初めに「技術開発」をあげています。(「技術の開発」はわが社の生命であり新しい技術、商品の開発に挑戦する。ちなみに企業理念は以下「顧客第一」「業績の追求」と続きます)

今の朝日インテックがあるのは、当社の持つコアテクノロジーのおかげです。「伸線技術」「ワイヤーフォーミング技術」「樹脂コーティング技術」「トルク技術」、これが朝日インテックの4つのコアテクノロジーです。

講演当日には、実際の当社の製品のサンプルを持ってきていただき、髪の毛より細いワイヤーやどんなに長くても操作者の手元の指の動きの通りに先端が回転する(回転追従性に優れた)ガイドワイヤーの模型を見せていただきました。どれも想像をはるかに超えた優れた技術であることが実感できました。

宮田社長は大学院修了後NTTデータ通信を経て、当社が医療分野に参入すると決めた1994年に当社に入社しましたが、2009年の社長就任時に立てた方針が、「1.グローバル」「2.技術イノベーション」「3.現場力」です。

宮田社長は今の朝日インテックの成功要因として「スピード」と「現場力」を挙げますが、その象徴的な出来事として2011年10月に起こったタイ工場の洪水被災への対応があります。この時主力工場であったタイ工場は1階がほぼ水没し、生産不能になりました。突然の非常事態に対応すべく、タイ人社員を日本の工場やベトナム・ハノイ工場に派遣し、短期間で代替生産体制を作り、生産を続けるとともに、タイ工場の復旧に努め、翌年4月には完全復旧を果たしました。これぞ朝日インテックのDNAと言えるものです。

グローバル化について言えば、生産拠点はタイ、ベトナムに加えフィリピンの3拠点。国内は研究開発に特化し、瀬戸市のグローバル本社R&Dセンターをはじめとして全国に5か所、他にアメリカ、タイに開発拠点があります。販売拠点は世界中に17あり、アメリカをはじめとして「ASAHIブランド」は浸透しており、高い認知度を誇っています。

今後の展開として宮田社長は当社のコア技術と、外部との連携やM&Aなどにより新しい技術を融合させることで技術的イノベーションを起こし、新規事業を創出し、将来の次世代スマート治療や遠隔治療の実現に向けて進んで行きたいと述べられました。

当日の参加者の中には、昔、狭心症を患い、カテーテル治療で助けられたいう方がいて、朝日インテックには本当に感謝していると言われていました。宮田社長の講演を聴いて、改めて朝日インテックの技術のおかげで世界中の多くの命が救われているという厳然たる事実を考える時、そんな社会に誇れる会社がこの地にあり、今回そのトップの話を直接伺う機会を持てたことが本当に嬉しく思えた講演でした。

宮田昌彦氏

[愛知県瀬戸市]
朝日インテック株式会社
代表取締役社長 宮田 昌彦 氏

1974年創業の朝日インテック、当時は大阪で産業機器に使用される極細ステンレスロープの製造・販売を行う小さな町工場であった。

創業の頃から直径で5mm以下の極細ステンレスワイヤーロープを製造するなど高い技術力を持っていたが、産業用デバイスを中心に技術開発を行う中で、オリンパス社の内視鏡用ワイヤーロープを受注製造したのがきっかけとなり医療分野へと進出。

その過程でコア技術を培い、他社にはなかなか真似ができない様々な製品を開発、今や日本でも有数の医療機器メーカーに成長し、2022年6月期は売上げ、営業利益ともに過去最高を達成している。創業から50年足らずで脅威の成長を遂げた研究開発型企業の成長戦略を聴く。