第一部:株式会社田中金属製作所 代表取締役会長 田中 和広 氏
今月の第1部の講師は株式会社田中金属製作所の会長田中和広氏です。5年間の修行の後、父親が旋盤1台でスタートした水栓バルブの町工場に入社。父親に無理を言って、当時1000万円した高額な機械を導入したことで急激に業績は拡大します。そこから下請けを脱却して自社商品を持ちたいと考え、節水シャワーヘッドの開発に乗り出します。
そんな、これからという時に水栓バルブの最大手の元請先の廃業やシャワーヘッドの販売委託先のトラブルのあおりを受けての販売停止といった事態が重なり、債務超過額が8000万円と倒産の危機を迎えます。
そんな時期にウルトラファインバブルシャワーという画期的な商品が生まれます。いくら良い商品だといってもすぐに売れるわけではありません。販路拡大に苦労する中、東急ハンズのある店舗で社長自らが行った実演販売が当たり、それが人気TV番組「ガイヤの夜明け」で紹介されたことがきっかけで爆発的に売り上げを伸ばし、3か月で債務超過を脱出します。
しかし、好調は長続きしません。競合メーカーが参入し、2018年の売上げはピークの1/3に大幅減。2度目の危機が訪れます。しかしまたしても人気アイドルのDVDで同社の商品が取り上げられたことで、再度、売上げに火が付き、復活します。
これらの経験から、商品を買ってもらうには、自ら情報の発信局となり、覚えてもらうことが大事と痛感します。田中氏は「売れないのではなく、売ろうとしていない」のであって、「伝える先に感動があり、感動の先に購買がある」と言います。
こうして我が子のように育ててきた会社ですが2020年に女性下着の通販大手のシャルレに全株式を譲渡、田中氏は上場会社の子会社の社長として再スタートします。実はM&Aについては2013年頃から考えていて、「事業の永続的な発展」「社員の安定のため」「事業の存続(後継者)」のために踏み切ったと振り返ります。
田中氏はM&Aで譲渡を考えている経営者に伝えたいこととして、以下をあげています。
- 業績が良いときに行うべき
- 最後まで、条件闘争。契約内容に納得できなければ最後にどんでん返しで条件を引き出す(付加価値)
- シナジーがあれば良いが、なければシナジー作ればよい
- 数年後、そして将来の自分はどうあるかを俯瞰で考える必要はある
- 次の世代へバトンを渡す覚悟
まさに波乱万丈の物語に加え、あまり聞く機会のないM&Aの譲渡側の話を聞けた有意義な講演でした。
第二部:名古屋市立大学高等教育院 特任教授 吉田一彦 氏
第2部の「ビジネスよもやま話」(45分、聞いて、学んで、すぐに語れる「聖徳太子」のはなし)は講師に名古屋市立大学特任教授の吉田一彦先生をお招きしました。
吉田先生によると、最近の研究から聖徳太子の人物像というものが随分変わってきており、最新の高校の教科書では、以下のような変化があります。
• 人名が「厩戸王」になる
• 「摂政」が消える
• 「皇太子」が消える
• 『三経義疏』が消える
• 現在は「蘇我馬子や推古天皇の甥の厩戸王(聖徳太子)らが協力して国家組織の形成」という記述。
しかし、歴史研究の上での聖徳太子の実際はさておき、日本には 奈良・平安時代から始まる聖徳太子を聖なる存在として、さらには仏・菩薩にも等しい存格として崇拝、信仰する「聖徳太子信仰」があり、朝廷や貴族社会・寺院社会から始まり、鎌倉・南北朝・室町時代には、さらに発展して広く民衆世界に流通しました。聖徳太子像(彫刻、絵画)、太子絵伝などの造形が発達。傑作も誕生。日本仏教史、日本宗教史の大きな特色の一つといえます。
この講演から、当たり前の事実だと思っていることが、そうでないことがあること。聖徳太子信仰から我々日本人の宗教観を理解する機会を得ることができました。この講演は、直接ビジネスに関する話題ではありませんが、「多様な価値観」を知ることが、先の読めない不確実な時代に舵取りを任される経営者の皆さまが判断に迷われた時に、何か役に立つかもしれないと考えた「学びなおし」の企画です。
いかがでしたでしょうか?
講師紹介
[岐阜県山県市]
株式会社田中金属製作所 代表取締役会長
田中 和広 氏
1968年生まれ。地元部品加工会社に就職、5年間修行を終え真鍮部品加工の職人として家業を継ぐ。水栓部品加工の傍ら自社商品『節水シャワーアリアミスト』を開発し事業化。
その後、ウルトラファインバブルシャワーヘッド『ボリーナ』を開発し、ウルトラファインバブルシャワーヘッドの市場自体を創出した。幾多の困難に見舞われても決して諦めず、常に前を見て努力し続ける不撓不屈のリーダーである。