11月13日に今年最後となるMARKファミリービジネス研究会11月例会を開催しました。11月のテーマは「廃棄を減らす知恵」です。

倒産間際の意思決定「正しい」を信じて進む力

株式会社FINE(名古屋市)
代表取締役 加藤 ゆかり氏

加藤ゆかり氏

第1部の講師は 株式会社FINE代表取締役社長の加藤ゆかり様です。株式会社FINEはアパレルブランドのネームタグを付け替えて再販売するという新しい流通システム「Rename」を2016年から開始。これまで誰も思いつかなかった新しい服の売り方であり、アパレル業界のサスティナビリティを創り出したとして注目されています。しかし、ここに至るまでのFINEの歴史にはさまざまなドラマがありました。

加藤社長は大学を卒業し、ハウスメーカーの営業職に就いた2年後、友人に誘われる形で、2008年に株式会社FINEを設立、取締役に就任。CDやDVDなどをアウトレット向けに卸す事業で業績を伸ばしていましたが、主要取引先とのトラブル発生をきっかけに業績が急に悪化、倒産の危機を迎えてしまいます。そんな中、2013年に代表取締役に就任。そこから事業再生への道が始まります。

そこで取り組んだのがFINEは「何のために存在している会社なのか?」を言語化することでした。そして出した答えが「Rediscovery of thing(s)」(モノことの再発見)という経営理念です。「モノやことが「本来持っている価値」の気付き(=再発見)を世の中に提供する」という意義を、これまで利益至上主義で行ってきたリユース品の流通や不要在庫の買取りという事業を見直す中で見出したのでした。その経営理念をどんな市場でどのように展開して事業再生を図るのかという事業ドメインの決定までの過程は非常に理論的なものでした。

会社経営を始めるまでは営業の経験があるだけで、経営というものを本格的に学んだことのなかった加藤社長は経営学の大学院に通い、そこで学んだ理論や戦略を用いて、参入する市場や自社のビジネス戦略を考察します。そこで出た答えが「アパレル市場」で「在庫の価値を見出し、提供する」という戦略です。

加藤社長の分析によると、アパレル業界の抱える課題の一つに過剰在庫と無駄の発生があります。アパレルは季節性が強く、トレンドの変動も激しいため、在庫が発生しやすく、かといって大幅なセールはグランド棄損につながりやすく、廃棄されるものも多い。そこでFINEは他社が販売継続できなくなった在庫を一括買取りし、FINEのチャネルで100%売り切るという販売の仕組みを生み出したのです。これがアパレルブランドのネームタグを付け替えて再販売するという新しい流通システム「Rename」です。

これは、社会課題として問題視されている新品在庫の推定廃棄量9,200万トンといわれるアパレル業界の廃棄を削減し、循環型経済の促進に役立つものです。これがSDGsやエシカル消費に関心の高い若者層の共感も得て、メディアでも数多く取り上げられるようになりました。

FINEの再販には、Renameの再販と元のブランド名のままのOff price再販があり、全国でのイベント出店とWebのオンラインストアでの販売を行っています。しかし、仕入れた商品を100%販売するのは容易でないのですが、「買取」という自社でリスクを取るサービスは100%在庫を消化することで新たな価値を提供できると考え、AIやビッグデータの活用・分析、顧客の消費動向や興味に向けてタイムリーなサービス提供や価格変更などを行うことで100%販売を実現しているそうです。FINEは、小売業における在庫というものに、次世代の持続可能価値という新たな価値を与えた会社といえるでしょう。

株式会社FINE(名古屋市)
代表取締役 加藤 ゆかり氏

食品ロスは本当に減らすべきか

日本女子大学 家政経済学科
教授 小林 富雄 氏

小林 富雄 氏

続く第2部のビジネスよもやま話では、「食品ロス」を取り上げました。講師は食品ロス問題の第一人者日本女子大学の小林富雄教授です。

最初に「食品ロス」の定義ですが、「食品廃棄物のなかでもまだ食べられる可食部」のことです。具体的には、減耗量、食べ残し、調理くず、直接廃棄(過剰仕入れ、過剰購入)です。そして2001年の「食品リサイクル法」の施行以来、食品廃棄物対策が進められ、2019年10月には食品ロス削減を国民運動とする「食品ロス削減推進法」が施行されました。

一般的な廃棄物対策の方策として3Rがあります。3R は Reduce(リデュース・減らす)、Reuse(リユース・繰り返す)、Recycle(リサイクル・再資源化する)の3つのRの総称です。食品ロスを3Rで見てみると、食品リサイクルについては、2022年の再生利用等実施率で、食品卸業、外食産業の実績は目標との乖離が大きいですが、食品製造業では2029年の目標95%に対し97%を達成しており成果が出ています。

リデュース(発生量の抑制)も進んでおり、2022年時点で政府の2030年目標(489万トン)を8年前倒しで達成しています。(ただし、事業系が大幅に目標を下回っているのに対し、家庭系も減ってはいるが削減目標より20万トン多い)

一方、リユースでは多くの課題があります。食品ロスでいうリユースの定義は、「事前に想定した実需者とは異なる形で食べられることにより、廃棄を免れる(Rescue)こと」でフードシェアリングと呼ばれます。「レストランで食べきれなかった料理を家庭に持ち帰って食べる」ようなケースが代表例ですが、これには衛生上の管理や万一、事故が起きた場合の責任問題があり、法的にみると壁がたくさんあります。また、そうしたレスキュー食品がいつ、どこで、どれだけ発生するかの予想が困難で、事業計画が立てにくいことなどの課題があります。フードシェアリングはリサイクルや発生抑制にくらべコストやリス
クが大きく、食品ロス削減効果は少ないと言わざるを得ません。

講演では、フードバンクと規格外野菜販売でのそうした課題解決に参考になりそうな海外の取り組みや日本国内でのユニークな活動を行っている事業者が紹介されました。

先日、厚生労働省が「食べ残しの持ち帰りに関する食品衛生ガイドライン案」を公表したというニュースがありましたが、小林教授は、衛生問題に敏感な日本では、食品ロスの削減にはReuse以外の流通システムと混流しシステムを安定化させることが効果的ではないかと述べられました。継続的に注視していきたい課題だと感じました。

日本女子大学 家政経済学科
教授 小林 富雄 氏