8月7日にMARKファミリービジネス研究会8月例会を開催しました。
8月のテーマは「ブランドを醸成する」。
日本酒をはじめ、ウィスキー、しょうゆ、味噌、酢などにまつわる美味しい話題をとりあげました。
未来へ繋ぐ地域の宝 造り酒屋承継から新たな挑戦を携えて
有限会社舩坂酒造店(岐阜県高山市)
代表取締役社長 有巣 弘城 氏
第1部の講師は有限会社舩坂酒造店代表取締役社長の有巣弘城様です。
アリスグループは、有巣社長の曽祖父母が岐阜県高山市で洋食屋をはじめ、その後、代を経てレストランや旅館業に進出。現在は高級旅館「本陣平野屋花兆庵」など2軒の旅館が事業の中心となっています。
そのアリスグループが、高山観光のメインストリート「古い町並み」にある200年以上の歴史を持つ舩坂酒造店を2010年にM&Aにより事業承継することになり、大学卒業後、東京の経営コンサルティング会社に勤務していた当時25歳の有巣社長が高山に呼び戻されました。
酒造りの経験のない会社が事業を承継した理由は、古い町並みという高山NO.1の商業地で商売ができること。造り酒屋を再生させることは、地域の魅力を守ることにつながり、その地域の食・歴史・文化とともにある旅館の価値を向上させると考えたからです。
当時を振り返り「しぶしぶ戻ってきた」と言う有巣社長ですが、初めてしぼりたての生酒を飲んだ時、そのおいしさに驚き、その魅力を伝えたいと奮起します。
既存銘柄「深山菊」に加えて新規ブランドとして立ち上げた「大吟醸四ツ星」を開発。そして「日本酒のテーマパーク」をめざす舩坂酒造店は酒蔵と同じ敷地内に食事処と売店があって、「見る」「買う」「飲む(食べる)」が一度に体験できるスポットになっています。
なかでも評判なのがゲームセンターのようにメダルを買い、酒サーバーにそのメダルを投入していろいろな銘柄の日本酒の飲み比べができるテイスティングコーナーです。
これによりそれまで、無料で行っていた試飲対応を、お客様が自由に楽しみながら無理なく有料化することができました。また、無料試飲に時間を取られていたスタッフが本来接客すべきお客様に対応できるようになり、顧客満足度の向上にも繋がりました。
これ以外にも有巣社長は様々なアイデアを新事業として具現化しています。新事業に関して、有巣社長は、「小さな投資で済むものは、とりあえずやってみる。結果がダメでも大当たりする可能性もある。」「大きな投資が必要なものは補助金をフル活用し、実現をめざす。」の方針で臨みました。
そして様々な改善により、コロナ禍で半分以下に落ち込んでいた売り上げも利益もV字回復させた当社は、次のチャレンジとしてウィスキー事業に乗り出しました。これも国の補助金などを最大限利用し、廃校になった小学校を利用して岐阜県初のウィスキー醸造所を設立しました。
ウィスキーは醸成期間が長いので製品の出荷はもう少し先ですが、既存チャネルや発酵技術、観光産業のノウハウなど既存事業とのシナジー効果が見込まれる新規事業と考えています。
有巣社長は、事業がもたらす地域への波及効果を重視しており、ウィスキー事業では原料の麦から、熟成樽まですべて岐阜県産のものを使用する試みも始まっています。
講演の最後に「やってきたこと、やろうとしていることがいろいろあることは事実ですが、将来は未知数です。しかしピンチはチャンスとして、常にあきらめず、次の時代、次の世代に将来のバトンを、変化に対応しながらつないで行きたい。」と締めくくられました。
有限会社舩坂酒造店(岐阜県高山市)
代表取締役社長 有巣 弘城 氏
東海地域の発酵食の魅力 美食と文化と健康から考える
名城大学農学部 教授
加藤 雅士 氏
第2部ビジネスよもやま話は、日本酒から範囲を広げ、様々な発酵食品について、名城大学農学部の加藤雅士教授から聴きました。
東海地域、特に愛知県は醸造産業の集積地であり、日本酒のみならず味噌、醤油、みりん、酢などの多くのメーカーがあります。歴史の長い企業が多く、その製品もバラエティーに富んでいます。
そして、それらは美味しさだけでなく、例えば甘酒には、飲んでは整腸効果や免疫力を高める効果、血圧を下げる効果があり、肌に塗っては美肌効果もあるそうです。また酢にも高めの血圧や血中脂質を低下させたり、疲労回復効果があることが知られています。
愛知県を含めた東海地域にこうした多様な発酵調味料が存在し、直接的、間接的に日本の食文化に影響を与えてきた背景には東海地域の地理的優位性や歴史的に経済基盤が安定していたこと、江戸時代の巨大消費地である江戸との海運でのつながりが大きかったことがあると言えます。
今後、日本食文化を世界に向けて発信していくには、この地域の発酵食の歴史や文化、機能性を認識することが必要であることを感じた講演でした。