未来を築くサステナブルな企業

第一部:Orbray株式会社(東京都足立区)
代表取締役社長 並木 里也子 氏

6月5日に今年のMARKファミリービジネス研究会6月例会を開催しました。

6月のテーマは「社員一人ひとりの声をきく」です。

第1部の講師は Orbray株式会社(旧:アダマンド並木精密宝石株式会社)代表取締役社長の並木里也子様です。学生時代はスノーボードの選手として活躍。1998年全日本選手権優勝、ワールドカップ選手として世界各地を転戦したという経歴をお持ちです。

Orbrayの主要製品は人工ダイヤモンドや人工サファイヤなどの精密宝石を用いた部品や光通信部品など、極小で高い精度が要求されるものばかりです。外からは見えませんが、スイスの高級時計の部品などにも使われているとのことです。一般消費者向けに知られたものとしてはレコード針の製造があります。

これらの製品を支えるのは「切る」「削る」「磨く」などの高い技術力です。世界で唯一Orbrayでしかできないものがいくつもあります。近年は半導体の分野でも世界最高性能を達成するなど業績は右肩上がり、今や従業員数単体で1000名(連結2000名)、売上高240億円以上と素晴らしい業績を残しています。拠点は、東京本社以外に、主力工場のある秋田県も含め青森県など6拠点、海外に5拠点あり、海外向け売上が7割を占めます。

そんな絶好調のOrbrayですが、並木社長の就任前には売上げが低迷し、大勢の従業員を解雇するような厳しい時代がありました。並木社長は3代目として2代目の父親の後を継いで経営改革に取組んだわけですが、就任時の目標は3つ。主力事業の「持続的成長」と「地域貢献」「経営基盤の強化」です。

それまで、長年専業主婦であり、会社経営の経験のなかった並木社長は、コンサルタント会社出身の副社長の力を借りながら、自分のできることとして取り組んだのが、社員コミュニケーションとエンゲージメント強化です。

中でも特筆されるのが3年半かけて行った社員全員(国内1000名)との個別面談です。また、個別面談以外にも女性社員との座談会や新入社員座談会、バースデイ座談会の他、社員の家族も巻き込んだスキー教室など交流の拡大を図っています。

こうした活動を通じて、それまで目に見えない形で存在した社員間の「層」のようなものが無くなり、真の意味でのフラットな組織になったような感覚があるそうです。そのおかげで会社の方針や社長の考えていることが社員に伝わりやすくなったと実感されているようです。

そして今のOrbrayを動かしているのが、並木社長の最大の生産拠点のある秋田への想いです。雪国特有の寒い冬を耐え忍ぶ文化や気質、我慢強さ、鎌倉時代から続く地元の漆器の伝統の技など、どれもこれからのOrbrayにつながり、支えるものです。そして2026年には本社を東京から秋田県湯沢市へ移すことが決まっています。

地域貢献はOrbrayの目標のひとつですが、Orbrayという一企業の活動が秋田という地域におけるブランドづくり、地域の魅力の発信に大きなうねりを生んでいると感じました。

講演の最後のメッセージは「未来に向かって秋田と共に」で締めくくられました。

Orbray株式会社(東京都足立区)
代表取締役社長 並木 里也子 氏

1998年にスノーボード全日本選手権で優勝、ワールドカップに参戦し世界中を転戦したアスリート。

2020年5月に家業であるOrbray株式会社に入社、2021年3月に同社代表取締役社長に就任。

顧客の要望に答える『オーダーメイド技術力』、全自動・機械化では成し得ない「匠の技」を武器に、多種多様なニッチマーケットで高い評価を得ている。 また生産拠点のある秋田県での地域貢献活動や従業員の幸せを最優先するユニークな取組みも注目を集めている。

Z世代の”生態”を正しく理解し、若者との良好なコミュニケーションを目指す

第二部:ディーフェイムス合同会社
代表 袴田 和子 氏

6月のテーマ「社員一人ひとりの声をきく」の第2部ビジネスよもやま話は、Z世代など若い世代の従業員とのコミュニケーションにストレスを感じている皆様に向けて、若い従業員とのコミュニケーションの取り方について名古屋工業大学非常勤講師(キャリア・コミュニケーション論)の袴田和子様に講演していただきました。

Z世代の生態について、袴田様は昭和世代の人たちの想像以上に変化していると指摘され、その特長として

  1. 「タイパ・コスパ重視で、心を乱されたくない」 
  2. 「生まれた時からネット情報社会」、
  3. 「自己肯定感が極めて低く、承認欲求が強い」

の3つを挙げられました。そして感性(感情)が乏しく、喜怒哀楽が乏しいけれど、感度が高いと言います。何かにつけ感想ではなく、評価という見方をします。感度が高い故、大人(上司、先輩など)をよく見ています。見透かしていると言ってもよいかもしれません。

また、感度の高さから、多くの場合ものごとをハッキリさせることに疲れを感じてしまい、問題回避や責任回避と感じられる言動に出ることもあるように思います。

こうしたZ世代に向けた話し方のコツとして袴田様は、まずボディランゲージが大切だとします。相手の話に対する表情・視線・ジェスチャー・仕草など非言語コミュニケーションの影響が大きいことは様々な研究からも明らかになっています。

そしてただうなずくだけでなく、共感し、傾聴し、興味をもっているという対応が欠けるといくら長時間、面談に時間を割いても「あの上司は私の話を聞いてくれない」という評価になりかねません。

上司や先輩が若い彼らのぼんやりしている”こころの視力“を直すメガネとなり、時には羅針盤となりうるには、まずは若い世代を正しく知ることです。

若い世代に迎合しろと言っているのではありません。彼らとの良好なコミュニケーションのためには、時代に自分を寄せ、馴染むことが重要だと袴田さんは結ばれました。

ディーフェイムス合同会社
代表 袴田 和子 氏

名古屋工業大学非常勤講師(キャリア・コミュニケーション論)
ディーフェイムス合同会社代表、コンサルタント