第一部:株式会社浅井農園
代表取締役 浅井 雄一郎 氏
第1部の講師は株式会社浅井農園、代表取締役の浅井雄一郎様です。
浅井様が5代目となる浅井農園は明治40年に三重県津市で創業し、サツキ・ツツジの生産を始めます。高度成長期に入り、浅井農園は花木生産で公共緑化事業やゴルフ場開発などにより売上げを伸ばして行きましたが、その後それらの仕事が激減し経営の危機を迎えます。
大学卒業後、東京のコンサルティング会社、環境系ベンチャー、農業ベンチャーなどで経験を積んだ浅井社長が5代目として家業を継ぎ、2008年に始めたのがミニトマトの栽培です。母親とふたり、わずか360㎡、売上げ200万円からの第二創業でした。
それが今は、トマト生産施設で13ha、その他果樹生産園地16haの規模にまで拡大。従業員もグループ全体で約500名にのぼります。
浅井農園は、「常に現場を科学する研究開発型の農業カンパニー」を目指し、植物にとって最も心地よい環境になるようコントロールするための環境制御システム、植物体計測センサー、 農業ロボット、補光LED等の技術導入により、生産性の向上を実現しています。
浅井社長は、変化の先取り(シフト)の重要性を説かれます。この分野で言えば、
- 世界人口が増えるといった「食農市場の変化」
- 農家が減り、耕作放棄地が増えるといった「農業構造の変化」
- 「気候環境の変化」
が挙げられます。
そして浅井農園は、変化していく社会に合わせるのではなく、 自分自身が先に変化していくことで 一歩先の未来をつくっていくことを実践しています。
浅井社長は2016年、36歳の時に三重大学大学院でトマトのゲノム育種を学び博士号を取られた博士経営者です。そして、その知見や人脈も生かし、三井物産やデンソーなどの大手企業と積極的な協業を実現しています。キウイなどトマト以外の商品にも取り組み、世界市場を見据えて北海道での拠点づくりやグローバル人材の採用など、その未来は地球規模で広がっています。
世界をめざす一方で、地域の力を活かす取組にも力を入れています。地元の製油工場の隣地にトマトの農園を作り、製油工場の排熱を有効利用した栽培方法を開発しました。また行政の協力で数十人の所有者がいた耕作放棄地を取りまとめ、地元の畜産業者から3000トンの牛糞堆肥、牡蠣の養殖業者から300トンの牡蠣殻石灰を提供してもらい土づくりをして、本州最大のキウイ畑を整備しました。そして一番人手の要るキウイの収穫作業には地元の方々が、まるでお祭りのように喜んで手伝ってくれたそうです。
皆が豊かになる・ワクワクする箱をどれだけ作れるか?そしてひとりひとりの挑戦を通じて、小さな変化を起こして行くことで、新しい「文化」 をつくることが、地域における浅井農園の役割だと考えています。
また浅井農園は、日本の農業の新たな歴史を作っていく人材の育成にも貢献しています。それがナフィールド国際農業奨学⾦制度です。ナフィールドは70年以上の歴史がある国際農業奨学⾦制度で、現在は世界中から年間約80名程度のスカラーが選出され、2年間にわたり世界6⼤陸を旅しながら、先進的な農業技術や⽂化を学びます。旅を通じて、奨学⽣は成⻑し、その国の農業を⽀える中⼼的なリーダーとなり、やがて世界中の農業奨学⽣らとの国際的なネットワークを構築できる研修プログラムです。
浅井社長は、このプログラムを支える(社)ナフィールドジャパンの活動に理事として参加されています。
今回の講演は、どれをとってもワクワクする話の連続で、参加者はその発想力、行動力に大きな刺激を受けました。
世界中から農業を志す若者たちが集結 常に現場を科学するアグロノミスト(農学士)集団を目指し、農業法人における経営発展モデル、地域社会から必要とされ続ける農業経営とは何かを追求する浅井農園の未来に注目して行きたいと思います。
第二部:事業構想大学院大学 教授 下平拓哉 氏
第2部の「ビジネスよもやま話」は講師に事業構想大学院大学の下平拓哉教授をお招きし、「社会動向と経営資源」というテーマで話を伺いました。
下平教授は防衛大学校卒業後、30年以上に亘り防衛の最前線において勤務し、日本人初のアメリカ海軍大学客員教授として教鞭を執るとともに、防衛省防衛研究所主任研究官として政策シミュレーションに関与した経験をお持ちです。軍事戦略と経営戦略を融合し、作戦思考や作戦術を新規事業の開拓に活かせるよう現在、事業構想大学院大学の教授としてご活躍中です。
下平先生によると、解決すべき問題には、「複雑な問題」と「複合的な問題」があり、前者は理論的に計画を作り、議論を重ねて行けば、90%の確率で解(最適解)が出せると言われています。一方で後者の解が出せるのは10%だと言います。
事業構想計画の作成も同じで、この複合的な問題を解くために必要なのがクリエイティブシンキングであり、ひらめきです。そしてシミュレーションを徹底的に行い、解(満足解)を見つけます。計画はサイエンス、実施はアートと言われるところです。アイゼンハワーの「計画それ自体に価値はないが、立案はすべてに勝る」という言葉も紹介されました。
新しい発想を産むための道筋の一端を知ることのできた講演でした。
株式会社浅井農園 代表取締役
浅井 雄一郎 氏
1980年生まれ。大学卒業後、経営コンサルティング会社等を経て、三重県津市にある創業110年余の家業(花木生産)を5代目として継承する。
公共工事やゴルフ場関連の仕事が激減する中で、第二創業として2008年よりミニトマトの栽培を開始。三重大学大学院でトマトのゲノム育種を学び、世界中の品種を集め栽培。品種開発〜生産管理〜加工流通まで独自の農業バリューチェーンを構築しながら生産規模拡大に取り組み、国内トップクラスの農業生産法人に成長させる。
2013年に辻製油および三井物産との合弁会社「うれし野アグリ」、2018年にデンソーとの合弁会社「アグリッド」を設立するなど、農商工連携により次世代型農業のモデル構築に挑戦している。