
8月6日にMARKファミリービジネス研究会の第5回、8月例会を開催しました。
『同族経営から"同志経営"へ』
第一部:IXホールディングス株式会社
代表取締役社長 浜田 吉司 氏(三重県伊勢市)

講師はIXホールディングス株式会社(三重県伊勢市)の代表取締役・浜田 吉司 氏です。伊勢と言えば伊勢神宮。その次に思い浮かぶのは「赤福」ではないでしょうか。1707年創業の赤福は濱田社長の父が10代目で浜田社長は次男です。赤福とおかげ横丁運営の伊勢福は長男家が、それ以外の事業は次男の浜田社長が引き継ぎました。IXホールディングスの旧社名はマスヤグループ本社と言い、おにぎりせんべいで有名なマスヤをはじめ酒造の伊勢萬など10社から成り、グループ全体の売上げは100億円に迫っています。現社名には伊勢志摩 (I) を新しい時代に向かって力強くトランスフォーム (X) させたいという意味が込められています。
そんな企業グループを率いる浜田社長には、大学教授というもうひとつの顔があります。2015年にファミリービジネスの長寿性に関する研究で三重大学から学位(博士)を得て、昨年からは三重大学教授として教壇に立っておられます。
浜田社長は大学卒業後、サラリーマンを経て家業を継いだのですが、赤福を継いだ兄に比べ、経営の仕方に対しての父親からの干渉は少なく、自由にさせてもらったと言います。その中で転機となったのが、社長業をやりながらの三重大学大学院での「学び直し」でした。それまで社長として試行錯誤してやってきたことを振返り、理論化し整理することで、この経営のやり方の延長線上に何があるのか、自分は何がやりたいのかが分かってきたといいます。
「学び直し」を経て見つけた自分のやりたかったこととは、オーナー家としての経営から大幅な権限移譲による従業員による経営への転換です。王制のような「同族経営」から立憲制の「理念経営」へ、そしてその先の自治制のような「自律分権経営(同志経営」)への進化です。同族経営から理念経営の実践を始めたのが2008年、それから同志経営の取り組みに移ったのが2017年とじっくり時間をかけて改革して行きました。背後には浜田社長によるパーパスとプリンシプルの浸透があります。現在の子会社の社長は生え抜きや中途入社など経歴はそれぞれですが、すべてオーナー家以外の人材が務めています。
オーナー経営から所有と経営の分離に移行するお手本のような事業承継の事例だと思います。
講演の終盤は地域イノベーションの話題でした。地方創生は政府の重点政策ですが、地方には今の時代に適合しきれていない低活用の社会資源がたくさんあるはずです。つまりそれは、地方にイノベーションの種=ビジネスチャンスがたくさんあるということであり、IXホールディングスは地域イノベーション(浜田社長はこれを小文字のイノベーションという)を群発させることで、大文字の地域イノベーションにつなげ、人とお金の良い循環を生みだして、地域の未来に貢献したいと述べられました。
浜田社長の講演を聴いて、大学で教えておられるだけあって、アカデミックな内容を分かりやすく話していただいた印象を持ちました。ただ、それは単なる理論ではなく、2007年に起きた「赤福事件」を契機に「同族経営」から「理念経営」そして「自立分権経営(同志経営)」までに至る道のりを実践してきたという揺るぎない事実に裏打ちされた話であり、そのリアルさに感銘を受けました。

IXホールディングス株式会社
代表取締役社長 浜田 吉司 氏(三重県伊勢市)
『地域活性化のススメ~地域プロデューサーの視点より』
第二部:東海学園大学経営学部
客員教授 横山 陽二 氏

「地方からの発信」がテーマの第2部「ビジネスよもやま話」は東海学園大学の横山陽二客員教授による『地域活性化のススメ~地域プロデューサーの視点より』です。
横山教授は、広告代理店電通のご出身で、大学教授の傍ら、地域プロデューサーとして数多くの地域活性化プロジェクトを手掛けてこられた経歴をお持ちです。講演では、地域を活性化する手法のひとつに地域プロデュースがあり、その進め方やその効果を横山教授が実際に関わられた実例をもとに詳しくお話いただきました。
そもそも地域プロデュースには、「創る」→「拡げる」→「動かす」という局面があるのですが、その中で多くの人や組織が関わります。国、自治体、企業、メディア、地域の人々など地域プロデュースの関係者は多様です。これらをまとめて成果に結びつけるのが地域プロデューサーということになりますが、これは言葉を換えれば、誰にでも地域プロデュースの主体になれるということです。企業経営者の皆様には、こうした形での企業の地域貢献策を検討してみてもよいでしょう。
今、横山教授が手掛けているのが「ジャパンガーデンツーリズム」です。ガーデンツーリズムは、複数の庭園が連携して、魅力的な体験や交流を創出するもので、国土交通省がこれを積極的に支援するための登録制度を設けています。これまでに日本全国で19計画が登録済みで、そのひとつに「伊勢國(いせのくに)お庭街道」があります。このコースは三重県内の7庭園を巡るものですが、横山教授の実家にある菰野横山庭園はその中のひとつです。横山教授は、みえガーデンツーリズム協議会会長も務められ、ガーデンツーリズムを通してお伊勢参りの機会に三重県内の宿泊・周遊を促すよう力をいれている「伊勢國お庭街道」のブランド化に向けての活動の紹介もありました。
今回は地域活性化に貢献する実例を知ることができ、よい学びをいただきました。
