
6月11日にMARKファミリービジネス研究会の第3回、6月例会が開催されました。
『聞香』
第一部:志野流香道
第二十一世宗匠 一枝軒 宗苾氏(愛知県名古屋市)

これまで当研究会の講師は、ほとんどが会社経営者ですが、今回はビジネスの分野ではなく、芸道の世界の若きリーダーをお招きしました。茶道、華道と並ぶ日本の三大芸道のひとつ、香道の志野流第二十一世家元 一枝軒宗苾氏が6月の講師です。
香道志野流は室町時代から父から子へ受け継がれてきた550年の歴史があり、伝統芸道の分野ですが、事業承継という意味では、ビジネスの世界にも通じる示唆に富んだお話を伺えるのではないかと思い、お招きしました。
講師の宗苾様は、今年の3月にお父様の二十代幽光斎宗玄様から38年ぶりに家元を継承したばかりです。このタイミングで新家元のお話が聴けるのは大変貴重な機会でした。
講演では、そもそも香道とはどういう芸道なのかを詳しく聞くことができました。
香りのもとは香木、正確には沈水香木といって、天然の木が100年単位で化石のように固まったもので、東南アジアでしか取れません。最も有名なものが正倉院の宝物の蘭奢待(らんじゃたい)です。大変貴重なものでこれまでに足利義政、織田信長、明治天皇が切り取ったといわれ、いわば権力の象徴であったようです。香道では香りを六国(香木の種類)や五味(香りを味覚になぞらえ、甘い、辛い、苦い、酸っぱい、塩辛い)に分類しますが、それを決めるのも家元の大きな仕事だそうです。
香道では「香を嗅ぐ」ではなく、「香りを聞く」と表現します。西洋の香水と違って、香道の香りはかすかで、はかないものです。それを五感をフル稼働して聞き分けるのです。正に香りを通して自然界の声を聞くのが香道です。また、香道には、茶道、歌道、書道、漢詩、礼法、陰陽五行思想、古典文学等々幅広い知識や教養が必要で、その奥深さに驚かされます。
さて志野流は、御家流とならぶ香道の2大流派のひとつです。室町八代将軍足利義政の側近として仕えていた初代が慈照寺(銀閣寺)にて始め、香道の基礎をつくりました。その志野流が現在、尾張、名古屋にあるのは、十五代家元の時代、幕末の1864年に「蛤御門(禁門)の変」に巻き込まれ家屋が焼失。その時、尾張徳川家の庇護を受け尾張(名古屋)へ避難してきたことによります。その後、名古屋の財界人の援助もあって今に至っているそうです。
さて、そうした苦難の歴史も経て、新家元は二十一代目として50歳にして550年続く家系を引き継いだわけですが、承継にあたりその重みや責任をどう感じているのでしょうか?
講演の中で宗苾氏は承継をリレーにたとえ、「バトンを落とさずに次に渡すことが大事。私は最終ランナーではない。」と言われていたのが印象的でした。そして、「次の500年先まで、残すにはどうしたらいいのか」をいつも考えているといいます。事業の継続を考えるスパンとして500年という時間軸は一般企業では考えられない長さであり、そこに歴史の重みと責任の大きさを背負う新しいリーダーの使命感を感じました。
そして、続いて行くためには「変わること」が不可欠で、「変わらないものは、やがて潰れる」と述べられました。
それでは、香道志野流が、これから500年続いて行くために、香道は現代社会にどんな価値を提供できるのでしょうか。講演の中でこんなエピソードを紹介されました。
仕事で疲れた皆さんが会社帰りに香道のお稽古に通い、お稽古が終わるとスッキリとした表情に変わり、笑顔で家路につかれるというものです。AIだDXだと変化の早い現代社会に、「自然界の声を聞く」という香道の価値を示すものではないでしょうか。
そして、一歩一歩しか進めない。でも心を込めてそれをする。苦労して、失敗したからこそ得られる喜び、感動が人生の本質であり、これは芸道でもビジネスでも同じだと、いうメッセージが心に残った講演でした。

志野流香道
第二十一世宗匠 一枝軒 宗苾氏
『コーチングは世代を超える-思いが心に届くコミュニケーションスキルとは』
第二部:銀座コーチングスクール静岡校 代表講師
高木 牧人 氏

「教える、伝える」がテーマの第2部のビジネスよもやま話は、「コーチング」を取り上げました。講師は銀座コーチングスクール静岡校の代表髙木牧人氏です。
コーチングの当事者はコーチとクライアントですが、コーチングと聞くと、野球やサッカーのコーチを思い浮かべる方も多いと思います。しかし、それは違っていてコーチングでは、ティーチングはしません。コーチングの目的はクライアントに自ら気づいてもらい、行動の変化につなげることであり、答えはクライアントの中にある、というような言い方もします。
髙木氏の定義によると、コーチングとは、(高度な)コミュニケーションスキル です。講演ではいろいろなケースを取り上げて、重要なスキルのポイントを解説していただきました。
コーチングの流れをいうと、
- 認める
- 聴く
- 質問する
- フィードバックする
- リクエストする
です。一見、3の「質問する」が重要に思われますが、最も重要なのは1「認める」だそうです。繰り返し、相手を受け止め、認め、共感することで、信頼関係が生まれ、ひいてはより良い企業風土につながります。
自社の部下の顔を思い浮かべ、自分の会社でのコミュニケーションの状況を考えながら講演を聴いておられた参加者も多かったように思います。良い学びの機会をいただきました。
