9月4日にMARKファミリービジネス研究会の9月例会を開催しました。

テーマは「AIはどこまで進化するのか」です。

老舗食堂ゑびやがDXした理由 テクノロジーと共に企業を変革する

株式会社EBILAB・有限会社ゑびや(三重県伊勢市)
代表取締役 小田島 春樹 氏

小田島春樹 氏

第1部の講師は 有限会社ゑびや、株式会社EBILAB 代表取締役社長の小田島春樹様です。

伊勢神宮の参道で飲食店と土産物店を経営するゑびやは、創業100年を超える老舗です。現在39歳の小田島社長ですが、2012年から、妻の実家である同店の経営に携わっています。当時のゑびやは、業績が振るわず事業の縮小とテナント化を検討していました。しかし、その計画は頓挫し再建の道を探ることになりました。家族経営の地方の飲食業という圧倒的に不利な条件が揃っていましたが、「徹底してやる」ことが自分の強みだと語る小田島社長の「やってやろうじゃないか」という気持ちに火がつきます。

経営を考えるにあたり、「利益を上げること」と「経営を楽にすること」の2点の達成に取り組むことにし、改革を始めます。デジタルとは無縁だった店舗でExcelによる管理を手始めに、データ活用とデジタル化を進めました。

小田島社長は日本の人口が減少すれば、日本人の観光客がほとんどの伊勢神宮を訪れる人も減ることは明白で、「これまでのような伊勢神宮に依存したビジネスモデルは成り立たない。変わらなければ衰退するのみ」と考えました。では何をすればよいのかを考えた結果、ゑびやの生産性の低さは、見方を変えればまだまだ変化できる余地があると気づき、データ活用・分析、デジタル化で生産性の向上を図ることにしました。

売れ行き情報のデータベース化、人流データ、アンケート分析、来客予測、画像解析AIによるデータ収集とレベルを上げ、今では食事メニューの販売数や、翌日の来店客数を90%以上の精度で当てることができると言います。また在庫管理のデジタル化やバックオフィス業務の外注化などで省人化し、店舗運営のオペレーションも効率化しています。

生産性の向上は、小田島社長が経営に関わり始めた2012年に年間売上げで約1億円の時代に42名いた従業員数が、新規事業も加わり、売上8.3億円となった昨年でも46名とそれほど変わっていないことから分かります。おかげで今や小田島社長は年間40日間を海外で過ごせるような時間的余裕も生まれています。

こうしたデータ活用のノウハウを基に、同社のシステム部門を2018年6月に分社化し、株式会社EBILABを設立。Touch Point BIというサービスを提供しています。サービス提供先は飲食業はじめ多様な業種の300社以上、自治体向けも35以上に広がっています。

日本のDXは、特に中小企業で進んでいないと言われますが、DXの推進がビジネスモデルの抜本的改革につながる経営改革であることを証明した講演でした。

株式会社EBILAB・有限会社ゑびや(三重県伊勢市)
代表取締役 小田島 春樹 氏

AIとビジネス

株式会社アラヤ 研究開発部チームリーダー
近添 淳一 氏

近添淳一氏

第2部ビジネスよもやま話は、「AIとビジネス」という演題でAI開発のベンチャー企業、株式会社アラヤ・研究開発部チームリーダーの近添淳一様から、複雑で専門的なテーマを素人の私たちにも分かりやすく解説していただきました。

人間の脳の神経細胞間の情報伝達の仕組みと同じような部品から構成されるAI(人工知能)は、脳と似ており、非常に複雑なことをやっているように見えますが、言ってみればたくさんの電卓を並列・直列に並べただけと考えてもよいそうです。この10年でこれらの電卓をとても上手に使えるようになったことでAIは一気に発達しました。ですから今のAIは万能のように言われますが、巨大な電卓の域をでていないと近添様は言います。

従って、データ分析と予測、パターン認識、ChatGPTのような自然言語処理、画像・音声認識、班費区的なタスクの自動化、大量の情報処理などはAIの得意とするところですが、創造性や独創性の発揮、感情の理解と共感、倫理的判断、自己意識や意図の形成といったことはAIにはできない領域です。AIが人間の知性を超える局面(シンギュラリティ)が何十年か後に起こるという話を聞いたことがありますが、今の延長線上ではまだまだ難しいようです。

とはいえ、AIの得意分野の画像処理や顔認証の技術を用いた製品やサービスはたくさんあり、ほかに自動運転や自動翻訳など身近で便利なサービスの恩恵を受けている人も多いです。医療の分野では胸部X線検査や乳がん検査では人間の医師を超える正確な判断が可能になっています。

また、最近話題のChatGPTについて、大規模言語モデルによるAIでは、その信頼性や正確性ではClaudeに及ばないようですが、ChatGPTをプログラミングに使うことで、それまで3か月かかっていたAI開発期間が数時間や数日に短縮できるとのことです。AI開発の知識や技能を日本語で習得することもでき、ChatGPTなどを使えば初心者でも自社専用のAIの開発を1年程度でできるようになるため、そうなると自社でAI開発者を養成するという経営戦略も考えられます。

AIの導入が経営改革につながるという第1部の講演の内容にも共通する話でした。

株式会社アラヤ 研究開発部チームリーダー
近添 淳一 氏