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第6回 資産整理と財務改善、必要なのは早めの対応
【開業医のためのクリニックM&A】岡本雄三税理士事務所・MARKコンサルタンツ代表 岡本雄三

先日、「ミシュランガイド愛知・岐阜・三重2019特別版」が発刊されました。この地方のレストラン536軒、宿泊施設92軒が掲載されています。

ミシュランガイドは、1900年にフランスで創刊されました。ミシュランの社員であり、プロフェッショナルな知識を持つ調査員が五つの基準で匿名調査を行い、厳選したレストランや飲食店を紹介しています。

ミシュランガイドの創刊号。表紙に創刊年を意味する「1900」の数字が見える(AFP時事)

一つ星、二つ星、三つ星の評価は、素材の質、料理技術の高さ、独創性、価値に見合った価格、そして常に安定した料理全体の一貫性など、いくつもの点が評価されます。世界の食通の方たちが注目し、支持しているガイドブックです。

ガイドブックに掲載されたレストランの中に、自分が訪れたことのある店を捜された方もいるのではないでしょうか。私も、クライアントの医師に誘われて訪れたレストランをいくつか発見し、なんだかうれしい気分になりました。

一方で、2012年4月から、製薬会社のMR(医薬情報担当者)による医師への「華美な接待」が禁止されて以来、医師接待専門の高級レストランが次々と廃業した記憶がよみがえりました。

「良いものやサービス」を提供しさえすれば、必ず売れる時代もありました。ですが、顧客のニーズや市場の変化を敏感に捉え、環境変化に適応していくことが、持続可能な事業を行う上で、大切なことだと思います。

ミシュランガイドに記載のレストランの多くは、素晴らしい価値を提供しているだけでなく、質の高い事業を継続していくためのヒントを与えてくれます。

◇資産に公私の線引きを

 さて、今月の本題に移りましょう。クリニックのM&Aを成功させる3番目のポイントは、資産の整理や財務内容の改善で、売れるクリニックに磨き上げることです。

 開業医の財務的問題で多いのが、個人の資産とクリニックの資産との線引きが曖昧になっているケースです。例えば、自宅、自家用車、ゴルフ会員権、リゾート会員権といった、事業に関係のない資産がクリニックの資産として組み込まれていることがあります。

交際費なども、必要経費とプライベートの境目が曖昧になりやすいものの一つです。税務調査の時に指摘された経験のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

◇曖昧で不利になることも

財産の整理ができていないと、財務デューデリジェンス(買収対象の資産査定)の際に不利になることがあります。

ゴルフやリゾートの会員権は、買い手側の医師が不要だと考えれば、譲渡価格の中に含めることができません。

また、これらの経費が計上されている場合、利益が圧縮されているため、クリニックそのものの収益力評価にも影響します。

不必要な経費や資産が財務諸表に混在していると、経営の実態が見えづらく、M&Aがスムーズに進まない原因になることもあるので、事前に整理や処分を考えましょう。

事業に関係のない資産は、原則として売却します。医療法人の場合であれば、退職金の一部として現物支給を受けることも可能です。

◇まずは資産の整理から

 将来、M&Aを考えるのであれば、相手方にクリニックの実態を見てもらい、正しい評価を行ってもらうためにも、これを機会に資産の整理を始めましょう。

リゾートやゴルフの会員権は買い手側が不要だと考えれば譲渡価格に含めることができない(写真はイメージです)

さらに、M&Aをする時期が近くなったら、事業関連資産の整理も始めましょう。たとえ事業に関連する資産であっても、過剰な投資は買い手側の金銭的負担を大きくするため、承継先の選択肢を狭めることになりかねません。余分な機器の購入は控えましょう。

実際に経験した事例ですが、M&Aの承継先もほぼ決まり、後は交渉を詰めるだけという段階になって、新しい医療機器を購入しようとされた院長がいました。

譲受側の医師に購入を相談したところ、その医療機器は使用するつもりがないと言われ、慌てて購入を中止したのです。譲受側の医師の診療スタイルでは、さほど重要な医療機器でなかった上に、新規購入することで、M&Aの価格に反映されてしまうことが嫌われました。

M&Aでは、必ずしも同じ診療科目同士で引き継ぎがなされるわけではないので、現院長にとって必要な医療機器でも、次期院長にとっては不要になるケースがあるのです。

次の院長が使わないことが明らかな機器については、売却するなどして、できる限りスリム化を図りましょう。

◇生命保険の見直しも

生命保険の内容の見直しも、必ずM&Aまでに実施すべきです。

万が一の場合の保障や、ご自身や従業員の退職金の積み立てのために生命保険に入っている医療法人も多いことでしょう。貯蓄性の高い生命保険契約については、医療法人に残すのか、解約して退職金の原資とするのか、検討が必要となります。

また、ご自身に不測の事態が起こった時のための保障であれば、退職時に保険契約を個人名義へ変更する必要性があるかなども含め、早めに検討しておくべきだと思います。

資産の整理や財務内容の改善をするために、一度にできない対策もあり、中には複数年を要する対策もあることを考慮し、M&Aを将来考えるのでしたら、早めにグランドデザインを描いていただきたいと思います。

岡本 雄三(おかもと・ゆうぞう)
岡本雄三税理士事務所代表。株式会社MARKコンサルタンツ代表。税理士、行政書士、宅地建物取引士、M&Aシニアエキスパート、経済産業省認定経営革新等支援機関。
1967年生まれ。91年早稲田大学商学部卒業。98年岡本雄三税理士事務所開設。2000年公益社団法人日本医業経営コンサルタント登録。個人医院の開業、医療法人の設立、税務など、医業コンサルティング業務のほか、一般法人の税務、事業承継、M&A支援、資産税にかかわるコンサルティング業務を手掛ける。「後継ぎがいない会社を圧倒的な高値で売る方法」「開業医のためのクリニックM&A」など著書多数。