経営者のためのビジネスセミナー「MARKファミリービジネス研究会」の第6回を、名古屋駅前のウインクあいち(愛知県産業労働センター)にて、10月22日(木)の15時30分から開催しました。

講師は居酒屋チェーン「世界の山ちゃん」を運営する株式会社エスワイフードの代表取締役山本久美様です。

「世界の山ちゃん」といえば看板メニューの「幻の手羽先」と「鳥男」のキャラクターでお馴染みですが、その「鳥男」のモデルが先代の山本重雄氏です。重雄氏は4年前の2016年に急死されます。享年59、死因は大動脈解離でした。その会社を当時専業主婦だった妻の久美さんが承継しました。

今回の講演では、カリスマ経営者の夫が急逝後、経営素人の妻が社長としてどう会社を率いてきたのかについて語っていただきました。

 

世界の山ちゃんといえば、「幻の手羽先」がすぐ思い浮かびますが、このネーミングはあるお客様から「おいしくて、あっという間になくなる。まさに幻の味」と言われたのを重雄氏が「面白い。商品名にしよう」と決めたもの。また、アルバイトの店員が電話でふざけて「はい、世界の山ちゃんです」と言って応対しているのを聞いた重雄氏が「それいいな」と店舗名に取り入れ変えてしまいました。重雄氏のお客様が面白い、楽しいと感じるものを嗅ぎ取る能力と良いと思ったものをすぐに取り入れる柔軟さが分かるエピソードです。

また、重雄氏自身がモデルのキャラクターである「鳥男」の看板も最初は名刺に使っていたイラストを大きな看板にしたものです。インパクトの大きいこの看板は店の知名度を上げ、集客に貢献しました。

重雄氏が経営者として成長するきっかけとなったのが、東日本ハウス創業者の中村功氏の勉強会だといいます。そこで学んだ経営者の役割についての教えは大きくふたつ。「社員を守る」と「守破離」です。

社長の一番の役割は従業員とその家族の生活を担うことだという中村氏の教えを聞いて、自分はまったく守れていないと大いに反省したそうです。そして、中村氏から「たとえ今は守れていなくても、守ろうとする気持ちが大事」と言われ、「いつか絶対に社員を守れる強い会社にしたい」と心に決めました。

また、守破離は武道などの師弟関係での修業における過程を示したものですが、良いと思うことは取り入れながら、それにアレンジを加えることを忘れない重雄氏はこれを「山ちゃん流の守破離」に変え、分かりやすく社員に示しました。

 

山ちゃん流守破離

守:基本を学ぶこと

入社1年間は上司、会社の方針に無条件に従う

破:基本を少し破り、工夫すること

離:改善改良を繰り返し、自分なりの型を作ること

 

勉強会で学んだことは、特別なことというよりは、当たり前のことなのですが、久美社長は社長になった今、その当たり前のことを素直に受け入れ、忠実にそれを実行することがいかに難しいかを感じています。そして改めて当たり前のことをやりこなし、それをやり続けることができた重雄氏のすごさを実感するそうです。

 

突然、会社を引き継ぐ立場になった妻の久美さんは、大学卒業後、結婚するまで小学校教師として働いていましたが、当時は専業主婦で、もちろん会社経営の経験は全くありません。どうして会社を引き継ぐという重大な決断ができたのでしょうか。

久美社長はそれまで会社の仕事にはほとんど関わっていませんでしたが、唯一行っていたのが店内に掲示するかわら版通信月刊「てばさ記」の制作です。

その締切が迫っていました。社員からは「こんな時ですから今回は休刊にしましょう」と言われました。これに対し久美社長は「それはお客様への配慮?それとも私への配慮ですか? 私への配慮ならばいりません。私は書きます。」と答えました。

完成した第190号の「てばさ記」は「山ちゃん天国へ!ありがとう山ちゃん」という見出しでした。この「てばさ記」を作ったことで、気持ちが整理され、夫の遺志を受け継いで会社を継ぐ気持ちが固まったといいます。

会社の代表となった久美社長はそれまでどんな人生を送ってきたのでしょうか。

久美社長の生い立ちはバスケットボール無しでは語れません。久美社長の通っていた中学校はバスケットボールの強豪校で越境入学するなど優秀な選手が集まっていました。その中で久美社長は地元出身ながらキャプテンを任され、ついには全国大会で優勝します。高校は公立の進学校へ進み、その後愛知教育大学へ入学。その間もバスケットボールは続けており、卒業後は小学校教員となります。

そして、赴任先の小学校ではバスケットボールの指導者として活躍し、クラブチームを率いて全国優勝を果たします。

久美社長はバスケットボールを通じて、見て学ぶこと・時間を上手に使うこと・言われたことを素直に受け入れること、の大切さを学んだと語ります。

久美社長は学生時代のこのバスケットボールに打ち込んだ時間が、今の経営者としての自分の基礎を作り、能力や精神力が鍛えられたと振り返ります。

全く未経験の社長業ですが、1年目はまず会社の行事にはなんでも参加して会社を知ることから始まりました。それまでは重雄氏がトップダウンで何でも決めていた会社でしたが、組織を見直し、それぞれの仕事の責任の所在を明確にし、経費削減にも力を入れました。

そして、大きな変革として、トップダウンでなく、幹部、店長らからのボトムアップで会社の理念を新しく作り直しました。

そこで決められた社是は「立派な変人たれ」

重雄氏の遺志を継いだ幹部や店長たちによって作られました。

全員がまとまって、目標にむけてそれぞれの役割を果たす会社になる。これこそバスケットボールのクラブチームで全国制覇を成し遂げた久美社長の経験と重なるものでしょう。

 

「世界のやまちゃん」という強力なブランドを武器に、現状に止まることなく変化し続けることがこれからのエスワイフード進むべき道です。

新しい取り組みとして、デザートメニューの開発、キッズルームを備えた店舗、中華(点心)料理の店舗(世界のやむちゃん)、ナゴヤドームへの出店などの事例が紹介されました。

また、コロナ禍でのさまざまな取り組みも知ることができました。

 

「世界の山ちゃん」の歩んできた道、そこに登場する人たち、そして名物メニューや独自のサービスの数々はどれも魅力的なストーリーにあふれています。

現在、社員とアルバイトを合わせて1700名をまとめる山本久美社長が語る様々なストーリーから「世界の山ちゃん」ブランドの強さの秘密を知る講演となりました。